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日々是好日。


by farewell0324

なぜ、スイッチを押すのか

良い舞台でした、「スイッチを押すとき」!
ネタバレご注意……どうやら原作とほとんどストーリーが違うらしいので、観に行く人は特に!





日本の自殺率は先進国の中でもワースト1。これに危機を覚えた政府は、「人はなぜ自殺をするのか」「自殺を減らすにはどうすればいいのか」を解明し防止策の一助とするために、あるプロジェクトを打ち立てる。
10才になる子どもを無作為に選びだし、施設に監禁しその行動と成長過程、心理の一切を把握する。この際、子どもの心臓に装置を取り付ける。痛みを伴わずに生命活動を停止させるこの装置は、子どもに手渡されたスイッチを押すことによって作動する。子ども達は、自殺を実行するときにはスイッチを押すように教えられる。子どもの日々の記録、強制的に付けさせられる日記から、子どもが自殺をするに思い至った理由、状況を読みとり、データとして蓄積し、自殺防止マニュアルの完成を目指す、という秘密裏に行われている実験を取り巻く物語。
被験体の子どもは自殺で死ななければならない。大抵の子どもは施設に収容されてから1・2年で自殺に至る。しかし、その中でも特に稀な例として、17才になる4人の男女が生き残っていた。この4人を自殺に追い込むために、看守が一人赴任してくる。

この看守が永山さん!
うは…俄然永山さんのファンになってしまった!所作と表情、発声、場の空気の作り方といい、この人こんなにいい役者だったのか!という気持ち。演じたミナミという人物は、子ども達を自殺させた実績ではピカイチだった、何故なら、実は彼は初代被献体世代の子どもの一員で、同世代の子どもたちが自殺に至る過程を一番近くで見ていたため、そのプロセスが成り立つ法則を知っていた。それは、「希望が絶望に変わった瞬間」が子ども達に訪れることで、ミナミは子どもを虐げるタイプの看守ではなく、このプロジェクトに組み込まれた子ども達が敢えて希望を持つように接していく看守だった。なので、冷徹なミナミ、と優しいミナミの切り替えが一番のポイントになるわけですが、この見事なこと!終盤に向けて、ミナミは自らの出自と正体を暴露し、そののち、より本性に近い「優しいミナミ」のあり方で終わるのですが、この切り替えが見事過ぎたためか、子どもを騙す芝居として振る舞いを切り替えていた人格なのか、本心から行動した結果生まれた人格なのかが捉えにくかったです。しかしミナミの子どもらに対する人格の在りようが指す隠された意図を、観客側にも明
確に把握させないという演出は、この舞台の核となる部分なのでそれで良かったのかもしれない。
ミナミは巧みに4人と関わりながら、それぞれが自殺に至るような状況を作り出していく。その中でも特に、ミナミが唯一の女の子であるマサミに仕掛けていったシナリオは秀逸だった。女性の心理を、ミナミが完全に理解しながら完璧に気持ちを誘導していく流れが感じ取れて、何だか自分の性格を暴かれていくようで、何度もどきっとした。(ちなみにマサミ役の女優はガロのヒロインだった肘井さん(よくテニミュ俳優と絡むなあ~~
そうそう相葉くん!元気そうでした!彼は下半身付随で車椅子に乗っている男の子の役。車椅子から投げ出される場面では、本当に足が不自由に見える動きが出来ていた。あれはきっと大変だっただろうにな…。演技はまだ荒削りでも、将来が楽しみだなあと思いました。(なんでこの子のブロマイドって買っちゃうんだろう(出演者の中で一番背が高かった、そして細かった(永山さんに抱き上げられる場面、こいつ、抱かれ慣れてる
この子の自殺理由は、ミナミが仕向けたかどうかは問題ではなかった。むしろ一番シンプル過ぎて、これは自殺の要因となるかどうかは個々人によるとおもう。そう、個人による。心身の障害の有無が、判断基準を得られるかどうかの分かれ目になる。
MITUという役者さん(歌手?)の歌が絶品だった。生の独唱であんなに上手い男の人の歌を聴いたのは初めてかもしれない…!ポップスを歌う時のテクニックの精髄…!

人の生死は、手のひらで握り込んだスイッチを押すように簡単に生から死の状態へ移行していった。自殺は事故に似ている、と考えてきたが、この子ども達の「事故」は致死が確実である、という事実によって一層深みにはまっていった。生死が表裏一体のように、絶望と希望も同様に表裏一体である。しかし、生死を切り替えるように希望を絶望に切り替えることは、同基準、同程度の扱いで行ってはならない。そうでないと生きられない。自殺をしないということ=絶望と死を直結させない=生き続けるということ、の図式が、作品の中心となる制度によって明確だった。


ながいので、次!
by farewell0324 | 2006-07-17 01:02